salmosax note

音楽家・山内桂 の雑感ページ

 アジア冬・5(KL)

今が雨季だというクアラルンプールは、毎日のように雨が降り、時には雷を伴って長くつづき、それはスコールの明るいイメージとは少し違うものだった。
そんなKLの街をオフの合間にちょっと観光。今や世界中にある似たり寄ったりの巨大なビル群やその中にあるショッピングモール。屋台などとのメニューや値段の違いなど、色々考えるところもありつつ楽しんだ。もちろん、屋台や街の飯屋が楽しい。
またある日は、ヤンセンとシーワイはDJスニフとBobとぼくを昼食に誘ってくれた。山の中のシーフード料理店というか、テーブル席の足元が養殖池というユニークな所だった。ココナッツワインを呑みながらまっくり過ごした。そのワインやテラピアの料理とかの酸いい味は馴染めなかったが、他は美味しかったし、ありがたかった。



11/28 Live Fact はマク・ワイ・フーが経営するライブハウス。スタッフみんないい連中だった。
この手のハコは音がデッドで聴衆も騒がしい傾向があるので、こちらも最初からマイクフィードバックを予定し、繊細な曲もやめた。
まずあのキギで攻めてアルトで即興。更にその後半にフィードバック、という戦略。でもオペレーターとのコミュニケーションは難しく、音量レベルをいじらないように言ってもいじるのだ。音に変化が起きなくなるしでアッサリ演奏をやめた。引く時にはさっと引く。
そして最後に挨拶をして、久しぶりに父に捧げた曲キホウを演奏。そう、この日は父の誕生日だった。父にあまりアグレッシブになるなと言われたのかもしれない。


ぼくは二十歳頃から社会的政治的義憤を感じるようになり、それがジャズやフリージャズ、そして即興演奏への変遷につながっていった。長く怒りの音を撒き散らしてきたのかもしれない。やっとそんなことにも気づいてきた。
音の中にある質、エネルギーあるいはエネルギーの質こそが本当に重要で、それを更に磨いていくつもりだけど、時々しくじる。


演奏を終えたあと、何人かが声をかけてくれ、何人かは肩を叩いてくれ、何人もがキホウを口ずさんでくれていた。ヘビーなロッカーが大半の会場で、こんなの、、嬉しいなあ。
まもなくベンズィーが現れた。ライトも点かないような古い日本車で送迎してくれるのだった。同じKL市内だけど、微妙に離れていて交通機関がない不便な所だった。寡黙だけどいいやつだ。



11/30 クアラルンプール最後の公演。ホフネンとハルリの上映 @ Da Huang Picture。
この団体の、エクスペリメンタルな映画を中心に、推し進め広めようという心意気がいい。ただボス不在で若い3人だけなので、いたる所問題や不安がありつつぎこちなく進行。
そうしてなんとか演奏も上映も終了。終わった瞬間の空気感ですべてが理解できる。相変わらずぼくの映画が入選はしても受賞はしない状況は変わらないが、お客さんの反応はそれ以上の評価を表してくれる。
そしてその後のトークでは質問が相次ぐ。これは国内外本当によくある光景で、心強い励ましにもなる。言葉の問題がどうしてもあるが、一生懸命話せばなんとかなるし、心は通じる。ぼくの演奏や映画のこと、サルモワールドのことを理解納得してくれたと思う。だって多くはないお客さんやスタッフがCDを買ってくれ、それはこのツアーで一番の売れ行きだったのだから。