salmosax note

音楽家・山内桂 の雑感ページ

 霊山道

ハルリ池のカフェのあと、あまりの暑さにどこか涼しい神社で休もうかと車で山を下っていて、小沢を鋭角に横切る所で閃いてその道路上で涼をとることにした。何度もなんども通ってきた道だけど、そこでゆっくり過ごす発想はなかった。車の離合も難しい狭い山道で、そこもそんなに駐車スペースがある訳でもなく、気持ち良く好きな道ながら早く抜け出ることに集中していたから。でも神社でなくとも霊山(りょうぜん)中腹のそこは神の胎内だった。


日本中の山岳渓流を駆け巡ってきた。その時の出来事の記憶でなく感覚の記憶が一瞬に蘇った。言いようのないしみじみとした淡く寂しく嬉しく懐かしい感覚に涙がにじむような、木や草の匂い、水の音、蝉の声、沢筋を降る風、覆い被さる樹々、などなど。


あー、これこれ、いつもずーとこれに包まれていたんだ。なんてなんて心地よい。
あー、これが優しさだと気づいた。


人はこんなにも優しさに包まれていたんだなあ。それを壊してきて、そしてその結果はやって来る。それを嘆いたり怒ったりしている。
わざわざ優しい場所を壊して優しくない場所を造り住み幸せだと言い聞かせ優しさを補う消費財を買いでも優しさに程遠い環境を呪いあるいは気づかず。


高度経済成長の終焉のおかげで開発されず取り残されたこの県道、数時間に車4台バイク1台人ひとりがぼくの足先を通り過ぎていった。