salmosax note

音楽家・山内桂 の雑感ページ

 CD「祝子」(houri) 解説〜1

salmosax2008-07-01

CD「祝子」(houri) をリリース (8月新譜) するにあたり、作品や曲についての話などを何回かに分けて書いていこうと思います。
salmosax ensemble の第1弾 (ということは続きがある、あるいは可能性を感じている) になるこの作品は、全18曲で、ぼくの祝子川の水と光の写真集18頁付きです。


祝子 (ホヲリ、ホウリ。以下ホウリに統一) は宮崎県北部の山間にある地名で、小さな集落があり、川沿いと山越えの2本のルートしかなく、そこから先に道路はありません。全国の例に漏れず谷沿いに林道建設が進んでいたのですが、心ある人々の運動で阻止できました。山に天然林が残されたため豊かな水とともに素晴らしい景観を誇ります。


「ずいぶんあっちこっち野山で遊んできたけれど、祝子の自然に包まれるのはなんて素敵なひとときだろう。」(ライナーノーツより)


神話のふるさと、というか天皇中心の記紀神話のふるさと高千穂からも遠くはなく、山幸彦で有名なホヲリノミコト由来説もあり、神武天皇はその孫にあたります。
また神楽の舞い手のことを「祝子」 (ホウリコ) と呼ぶように、「祝」1字だけでもホウリと読むようです。全国にもそんな神社や神職名、島などがあります。
語源として他に「ハフル」「ハフリ」も考えられ、いずれにしても神聖な響きがします。
そこに初めて行ったのは20数年前、雨の降る深夜でした。迷い込んだ感じでした。それ以来ある時は登山、ある時は釣り竿を持って、ある時はサックス、ある時は何も持たずに、ひとりで、あるいは友人たちと訪れてきました。




プロとしてのこの5、6年の活動によって、おおむね即興演奏家として認知されてきた今、自分の中のひとつの流れが対極的な曲のアンサンブルに向かいました。それらは対極に見えて、違うふたつのことでなく、中心にある自分から膨らんだ結果だと思います。


十数年前にサックスワークショップ的な教室を短期間だけどやって、サックスのみによる色んな可能性を試したことがあり、またその後劇団の音楽を担当したおりに臨時サックスカルテットで演奏。それらを通してサックス3、4人とベース1人から成る元祖「SALMO SAX」を結成したのでした (1996〜2001年)。
大分市内外で活動し、毎週ストリートで演奏していた時期もあります。
曲は学生時代のものから新しいものまでの中からピックアップし、あるいは SALMO SAX 用に書き下ろしたものをアレンジしましたが、スタンダードもアレンジして演奏していました。もちろん大分ではまったく評価されませんでした。


「祝子」に収められている曲はその時のものがベースなのです。
それらを修正したり新曲を加えたりして、全曲オリジナルで構成しました。そしてオーバーダビングを使い一人で演奏しました。すべて現地祝子での録音 (担当江上靖) で、山小屋に数日の泊り込みを何回か行ったのですが、去年その最中に過去に例のない強力な台風に見舞われ渓の様相が一変、いまだ回復に及ばないことに心が痛み、またその現場に立ち会ったことの不思議さを感じます。
そんな作品を世に問いたい気持ちもあります。


今回、慣れない器械操作で初めてのマスタリングを経験し、そんな困難をなんとか乗り切り、演奏の反省 (自分の録音を聴きながら演奏することや、アンサンブルでの音程や、なにやかやの難しさ) も踏まえ、気持ちはすでに次回作に飛んでいます。
それはともかく、この作品で自分自身を確認し、また「サルモサックスワールド」がより立体的になることを願っています。




また日本各地 (NZやアラスカやヨーロッパも) の川を巡り、その水の見せる表情に強く惹かれ続け、写真集を作りたいと思ったことがありました。渓流の妖しい光景を目にすると胸がドキドキするのです。
前作「Patiruma」(波照間) を作った際に、次は「祝子」をテーマにしたいと思いました。
そしてその後、スライド写真DVDを制作進行中に技術的予算的な問題から途中でCDに変更し、写真集を入れることにしたのです。夢が実現することになりました。
撮り貯めていた写真以外に、この谷の核心部から最源流部まで何度も遡行しシャッターを押し、祝子川だけの作品にしました。
未熟ですが、少なくとも人とは視点の違う (釣師の眼?) 写真だと思います。




30年余の、サックスや冬山スキー登山や渓流釣に狂った人生が、祝子に集約されてきたようです。でもそれは終りでなく、向こうに始まりを感じています。


( 以下曲解説 続く )