salmosax note

音楽家・山内桂 の雑感ページ

 田植え祭

2016年12月、「森のごはんや」が野津原田の口で行っている「体験型田植え」に音楽での参加を誘われた。
メンバー探しと野津原の調査を始めた。そして田植え唄を発見し、地元歴史風俗研究家の佐藤源治から楽譜入手。主催者に「田植え祭」を提案して神事から始めるよう依頼。主催側の事情で拍手(かしわで)を打つことで了解を得た。


さて、田植え唄を絡めた音楽の構想を膨らませていると横槍が入ってきて、更に鉄砲のタマは前からも後ろからも飛んできて、それらは最後まで続いた。
ぼくは音楽を創造する者。過去現在未来に亘って通底する価値観、それは自然・宇宙に対する畏怖・感謝、そして循環。それらを中心に据えて今の「田植え祭」をしようと思った。田植え祭や田植え唄の「再現」ではなく、今現在生きている有り様の中での表現を。


メンバーは7人のミュージシャンと2人のダンサーに定まったが、全員が顔を合わすのは本番当日だけ。田植えは10〜12時。どれ位演奏するのか、天候を含めてほとんど成り行きに任すしかない状況やイメージを、主催者にも共演者にも伝えるのは難しかった。仮に綿密なスコアを作ったところでその通りにいかないことも明らかで、即興性が高くなることは予想された。
サックスアンサンブルを固め、それに小太鼓や唄を乗せようと思った。長年やってきたサルモサックス・アンサンブルのシステムも流用。ダンサーには徐々に見えてくるイメージを伝え続けた。


前日の現地でのリハーサルでやっと形らしきものが見えた。夜はパフォーマー同士で会食し、ホタル観賞。塚野鉱泉に6人で宿泊。その後深夜到着した倉地久美夫と2人で進行説明や雑談で朝4時就寝。これらの時間が一体感をもたらし士気を上げる。


6月4日晴れ。出だし以外は成り行きというイベントの幕開けを迎えた。
二礼二拍手一礼を受けて、サックスアンサンブルの始まりの1音後、倉地、二宮のアカペラのソロとデュオによる「田植え唄」。さすが見込んだ2人の声は田や山に響いた。
続いて、神風の吹く中サックスアンサンブルによる「田植え唄」。小太鼓を合図に大人や子供たちが田んぼに入っていき田植えが始まった。
現代的に編曲した田植え唄や無調的なハーモニーは小太鼓のリズムに乗って進行し、それに歌手2人も絡み唄い叫び、ダンスのハエちち2人も畦で楽しく優雅に軽快に踊る。
ぼくが望む、、、予定調和でない、個々の閃き自発性による、感動の世界、、、が現出した。天と地と人の調和。田の神、太陽、風、土、水、植物、虫、、、の応援の中で。


未熟な部分は多々あった。でも述べてきたような状況の中、これ以上望むべくもないパフォーマンスだった。再現ではない、生きた、今の「田植え祭」だった。


そして気づいた、、、試練や困難も「田植え祭」も、天に仕組まれやらされたのだと。



【メンバー】 -----------------------------------------------------------
・山内 桂(音楽プロデュース)
倉地久美夫、二宮綾子(唄)
・ハエちち/宮原一枝+徳永恭子(コンテンポラリーダンス
・甲斐千津子(小太鼓)
・サルモサックス・アンサンブル/山内桂+竹本有華+安部元貴+長山礼人



倉地久美夫は福岡在の知る人ぞ知る歌手で、その不思議なクラチワールドには全国に多くのファンがいる。
二宮綾子は大分でもトップクラスの歌唱力をもつ実力派。
この2人、当日が初顔合わせだったが、実はぼくの映画「ハルリ」の中で声の共演をしている。
福岡のハエちちとは近年多くのコラボをしてきた因縁の仲。
甲斐千津子はミュージシャンではなく神楽に身を置いてきた人だが、この催しには神楽の太鼓しかないと思い、それに応えてくれた。
竹本有華はぼくの教え子であり、サルモサックス・アンサンブルのメンバーでもあった。この日のために東京より前日帰省。
安部元貴と長山礼人は学生だが、県外者が多い中、かれらのおかげで音楽のベースができた。


(文中敬称略)