salmosax note

音楽家・山内桂 の雑感ページ

 「アー写」事故

7月は6月にヨーロッパで会ったばかりの友人が2組やってきた。
一人はブルッセルでひとつコンサートを主催してくれた Rodolphe Coster。 初来日演奏ツアーするというので大分アトホールをお世話した。
その翌日に幕張 Dommune Festival 出演が急に決まって色々混乱したが、再会を喜んでくれた。来年の再々会を訳してバタバタと別れた。
もう一組はマルセイユの Derek とその兄貴。かれはストーリーテラーという、世界を旅して昔話とかを取材して、それらを語る珍しい職業者。うちに1泊して翌日は宮崎の祝子川に連れて行った。そしてぼくらは2日間水辺で過ごした。
翌日かれらは屋久島に渡り、ぼくの友人の高田コーヒーに立ち寄ったところまでは確認したが、その後どこに向かっただろう。かれも来年マルセイユでコンサートの世話をしてくれるらしい。



そうして8月に入り、この強烈な暑さのために再度祝子川に行ってきた。あの清涼な流れに身を浸すのだ。Derek たちと行ったばかりだが、その時に十分な撮影ができなかったからでもある。ひとりで集中したかった。

水以外にも自分自身の撮影、つまり「アー写」(アーティスト写真)撮影も行った。動画と写真の撮影をするんだけど、写真の場合は当然セルフタイマーを使う。10秒の間に所定の場所に移動する作業を何回か繰り返した。シャッターを押して、右手にソプラニーノサックスを持って水中を歩くのは結構大変だ。

水中にある大岩の縁でヌルっと足が滑った。ぼくはカナヅチに近い。そして前のめり状に落ちたぼくの体はどこも固形物に触れることはなかった。
これって危険っていうこと? 死ぬかもしれないってこと? 
まずいなあ、足をばたつかせても前進しないし。頭まで沈んで浮かぶ反作用を利用したり、、、右手はしっかりと楽器を手放さなかった。
そのうちさっきの大岩に近づいてなんとか這い上がることができた。そんなにパニックになったわけでもないのに、実は具体的にどう助かったのかよくわからない。


1985年の12/31に御岳山山頂からスキーで落ちた。アイスバーン状の雪の大斜面だった。すぐに死を確信した。滑落の間、頭がやけにクリアーだった。7、8秒後にスキーを蹴り込んでなぜか止まった。帰途もずっと頭が冴え渡り、なぜ助かったのか自問を続けたが答えは見つからなかった。


今回の場合はその時と違って、なぜかあまり緊迫感はなかった。その分、死から遠かったのかしら。助かったあとも、「ヤレヤレ」といった感慨だったし、でも死んでいてもおかしくはなかった。こんな半端な感じで人は死ぬのかなんて考えていたなあ。
カメラには滑って落ちる瞬間が写っていて、「ミュージシャン、アー写で死す」なんてならずにすんだ。そんなのイヤだ。でも「ミュージシャン、愛する祝子渓谷に没す」って伝説ができたかもしれないな。それも笑いながら語られる、、、それも悪くない。
だけどぼくにはまだこの世に仕事が残っているようだ。それは、なんなのか、今度は、なんとなく、分かっている。


(YouTube / Cool Salmosax 2013 この日の撮影)
http://www.youtube.com/watch?v=vdt-m_Gk5lI