salmosax note

音楽家・山内桂 の雑感ページ

 「剣岳 点の記」

salmosax note は、できるだけ音楽中心に進めていこうと思っているけど、きょうはちょっとイレギュラー。心が騒いでいる。
もちろんどこかで音楽につながってはいるし、その冒険心は同じかもしれない。


映画「剣岳 点の記」を観た。
新田次郎の原作で北アルプス剣岳が舞台。陸地測量部が未踏の山頂にやっと登頂すると、錫杖があった、という史実にもとづいている。
かれの本は多く読んだし、剣岳にも登った、、というか滑った。
20年以上にわたって、ひとり雪山に挑み山スキーで滑ってきた中の想い出の山。
だからその映画化を知った時は驚いた。


1984年5月、登山靴にアイゼンをはき、ピッケルを持ち、スキーを背負って岩と雪だけの剣岳を4時間かけて登った。
他の登山者たちの姿はなく、事故を起こしてもだれも気づいてはくれないので細心の注意が必要だ。
2998mの山頂(2004年10月、2999mに修正)の祠は雪の中で屋根だけ出ていた。
そこでスキーをはき、狭く細い山頂部を左右に切れ落ちている岩稜を見下ろしながら爽快に滑る。
劇中でもたどった唯一の登路であった三ノ沢(長次郎谷、雪渓)を経由するコースを逆に滑降するのだが、すぐに平坦部は終った。
そこから50°の壁が高度差で百数十m落ちていた。
本来ザイルの確保で下降するのだろうが、幸い大量の雪が付いているし、もとより単独なのでザイルはない。スキーのまま滑り降りることに。でも横滑りというか、片足は宙に浮くような状況で、とにかく態勢を崩さないように気をつけ、もし間違っても下のコル(鞍部)に引っかかるようにまっすぐ落ちることを願いながらズブズブと降りた。
そこからは長い長次郎谷を豪快に滑るのみ!
でも上天気のために雪がゆるんでいて、谷の左右からは絶えず雪や砂が落ちていてシュウシュウ音をたて続けている。岩でなくとも小石でも落ちてくればその破壊力は大きい。
そのためほとんど休憩をとらずに、一気に滑り降りた。


以上、ぼくの音楽に興味のある人は、そんな光景もイメージしてこの映画を観ると2倍楽しめるかも。


映画については原作に対する誠実さを感じたが、全体に色も音楽も暗すぎるように思った。実際に現地で感じる明るい爽快さをもっと取り入れて、明暗のコントラストを出して欲しかった。


それにしてもこの時期、ぼくは山でもすでにソロだった。自分がしたいことをするということはこういうことなのかな。