salmosax note

音楽家・山内桂 の雑感ページ

コントラバスサックス

20年ほど前に突然23年半のサラリーマン生活に終止符を打ち、以後渡欧を始めた。パリの楽器店でバリトンサックスの更に1オクターブ低音のコントラバスサックス(tubax/チューバックス)を試奏、、、出会ってしまったのだ。

1999年開発設計とあるから、誕生してまだ間もなかったようだ。従来の他社製品に比べて小型化軽量化簡素化され、さすがドイツ製だった。音も良く楽に吹けた。大分はもちろん、全国でも多分数本しかない楽器だ。帰国後しばらく購入を考えたが経済的に断念。

 

その後、音楽活動の当然の結果お金が底をついて、それまで以上に節約を強いられてきた。そんな日々から学んだことは多く、ますます自分の価値観も変わり世界の仕組みもわかってきた。自分が「生かされた存在」との自覚も更に進んだ。そうした中、少しづつ貯金をしてきた。

 

2年前にふとチューバックスをネット検索していて製作本社(Eppelsheim )にメールしたところ返信が来てしまい、ついには予約注文をしてしまった。受注生産だ。おりしもコロナ禍の初期。そんな時期に貴重な貯金で買い物をする自分が妙に嬉しく誇らしかった。やはり運命というか溜めてきたお金はこのためだったのか。あるいは自分の潜在意識の具現化なのか。

 

純粋に音を探り作る音楽で得られる収入は知れている。どんなに世の中が変わろうと、今世に音楽活動で得るお金がこの楽器の金額を上回ることはないだろう。でもこの人生で音楽ができない生き方だけはいやだと思った翌日会社に辞表を出したのと同様、この大切な人生において、チューバックスを手に入れて演奏したいという衝動は尊く、その気持ちをもう否定したくもなく、それはなにかの示唆でもあろうし、それに従うのが人間本来の生き方だと思う。

 

奇しくも一般に最高音域のソプラニーノサックスのソロ録音を終えてCDリリースが決まった時期に、一般に最低音域のチューバックスの購入を迎える不思議さ。楽しい。

 

注文から2年が経ち楽器が完成するとの通知が来た。この期に及んでコロナの影響や円安や送金方法などでストレスを感じている小心者でもある。